私的な散文

私的な散文を徒然に綴っていきます

病院幻想交響曲 空間はエーテルで満たされている

いつものように消灯時間を過ぎ、気のボールを作る訓練を始めた。
かなり、上達したようだ。
その時ふと目を上げると、部屋中キラキラ星で満たされている。
その美しさに見入っていると星々は隣同士、立体的に直線で結ばれている。
と言うのは星々の間に細かな光が走るので分かる。
星々の間隔は数十cmというところだろうか。
昔から、光を伝搬させるために虚空を満たす物があるとされ、それは“エーテル”と呼ばれている。
現代物理学ではその存在は否定されている。
それが見えるのか?
とんでも無いことになったな!
物理学の歴史を覆すことになるぞ!
これは原始、素粒子などとは次元が異なる存在なのだろう。
実際は波動としての存在だろうから、点と線には見えないのだろうが、存在を知らしめるかのように霧の中で輝く点と線に見える。
何と説明して良いのか分からないが、物質を含め、虚空を満たしており、遠くに行くほど光が弱くなるようだ。
だから、星空の眺めとは異なりすごく立体的に見える。
驚いたことに目を閉じても見える。
目を軽く閉じると遠くに、堅く閉じると近くにフォーカスするようだ。

これで納得できた。
入院した時から昼間でも無地の壁や天井に一杯の模様が見えていた。
線刻の模様だ。
私の推測では私の意志を反映してエーテルの各粒子に光が走り、それが模様として見えるのだろう。
全部が光っていれば網の目模様になってしまうが、有意な模様に見える。
どうも私の意志だけではなく、その面毎に意味があるようだ。
見る無地の面によって、それぞれテーマがあるようなのだ。
私のベッドの上の天井は岩綿吸音板というランダムに小さな穴があるような新建材だが、この面のテーマは“スキンシップ”だ。
通常は大きな公園の芝生の上で、何組ものペットと飼い主が寝転がっている。
飼い主の上でペットが気持ち良さそうに寝ている。
私は病んでいるがまだ若い。
従って時には性欲が若干高まるときもある。
そんな時は折り重なった裸の男女で一杯に見える。
さらに高まったときは凄くエロティックな裸体の折り重なりに見えるのだ。
この様子から私の意志あるいは感情を反映しているということが分かるのだ。
トイレのドアは子供を連れての狩猟、ベッドの正面の吊り戸棚はアメリカンコミック・・・という具合だ。

とうとう現代物理学で否定されている“エーテル”まで見えるようになってしまった。
常に腕に突き刺されている点滴用の大きな針を見て、サイボーグ化ではないが、我が身に異変が起きているような気がしていた。
最近のおかしな現象を考えると、異変が起きているとしか考えようがない。