演歌VSクラシック
夜ベッドで寝ていると、暗い中を窓の側のファンコイルユニットの音が聞こえる。
ファンが何かに当たるのか、リズムを刻んでいるように聞こえるのだ。
ウンタンタンタンタ~ン、ウンタンタンタンタ~ン、ウンタンタンタンタ~ン・・・
何だか演歌のリズム。
頭の中で演歌が響き始める。
それも、私が大嫌いなあの男の声で・・・
あいつがテレパシー攻撃を仕掛けてきたのか?
私はこれは勝負しないといけないと何故か判断した。
頭に響く村田英雄の演歌を、私の念力を使いねじ曲げる。
調子を落としたり、テンポを緩くしたり、レコードの溝に傷が入った時のように、同じフレーズを繰り返したり・・・念と念の戦いである。
私は念の力を振り絞る。
私は殆ど演歌を知らない。
しかし、それらしい歌詞を振ってくる。
急に村田英雄が千昌夫の“星影のワルツ”を歌い出した。
この歌の有名なフレーズ“別れに星影のワルツを踊ろう”を“カレーに干しかけのワカメを入れよう”と無理矢理歌わせる。
額に汗が滲む。テレパシーでの戦いだ。
かなりあの男は堪えているはず・・・自分の汚い部屋で・・・
学生の頃から嫌な奴だった。
悪ぶって演歌を歌いながら酒を飲み、私はいつも虐められた。
あんの野郎まだやるのか。
あいつは堪えたらしく、歌の最後のフレーズを繰り返させてやったら、段々おとなしくなっていく。
しかし一時したら、またあの嫌な声が始まる。
こうなったらクラシックで迎え打つしかない。
村田英雄の演歌がガンガン響いている頭の中の空間にクラシックを響かせる。
まず、バッハで攻撃だ。
ブランデンブルグ協奏曲5番で迎え討つ!
テレパシーでブランデンブルグ5番の長調の明るいテンポの良いメロディーをあいつの頭脳に送り込む。
念力を振り絞ると次第にブランデンブルグが優勢になる。
ファンコイルユニットからは重低音の振動も伝わってくる。
よし、この重低音をバロック音楽の通奏低音に利用しよう。
うまく流れ出した。
次はバイオリン協奏曲だ。
完全に圧倒した。
これでゆっくり眠れると思って安心すると、また奴が復活してくる。
よし、次はブラームスの重厚さで圧倒しよう。
交響曲4番第4楽章で決まりだ。
・・・そうこうしているうちに段々意識が遠ざかっていく・・・疲れた・・・